神経症 神経症に関するコーナーです。
そもそも「神経症」という言葉を比較的今の意味と同じように使いはじめたのは、 あのフロイトです。 神経症またの名を「ノイローゼ」とも言いますが、もともとは「末梢神経の病気」 と言う意味で使われていました。 フロイトの頃の精神科の大きな疾患のひとつに「ヒステリー」というものがありました。 ヒステリーというのは「突然歩けなくなる」「声が出ない」「手の感覚がおかしい」などの 末梢の神経がやられたのではないのか??と思わせるような症状となることが多く、 この病気を「神経症」と命名したのです。
しかし、実際に麻痺を起こす本当の原因は「心の中の不安」なのです。 つまり、末梢神経の病気ではないのです。 そこで、最近は医学的には神経症という言葉自体が使われにくくなってきています。 が、我々にとっては神経症という言葉の方がなじみ深いんですよね。
ここ では専門的な狭い意味(神経症と呼ばれていたもの)の神経症について述べていきます。
神経症とは? 「主として心因性に起きる心身の機能障害」と定義されます。 「主として」とあるのは、心因(心理的要因)以外にも、その人の素質や性格も関与してくるからです。 「機能障害」とは、身体の形が変わってしまうような形態的変化のある器質障害ではなく、 元に戻ることのできる病態という意味です。
神経症は、表面にでてくる症状(前景症状)によってさらにタイプが分けられます。 不安が前景に立つ不安障害、身体症状が前景に立つ身体表現性障害、 離人症状が前景に立つ解離性障害などです。 また、精神病(特に精神分裂病)でないことを確認することも必要となってきます。
発生の要因 神経症の発生要因には、個体側の要因(性格や素質)と、 環境側の要因(ストレス状況)の二つを考えないといけません。
神経症は状況次第では、誰にでも起こりうる病気なので、その点から考えると どんな性格の持ち主でも生ずると言えます。ただ、神経症になりやすい性格としては、
(1)神経質傾向 大人に見られる普通の神経症によく出現します。 この性格傾向は親からの体質的・遺伝的に受け継がれる部分もあれば、幼小児期の 親のしつけや幼稚園・小学校の先生の指導など、環境的な因子から形成される部分もあります。
この神経質な面がよい方向に発揮されると、社会では模範的な人物になります。 取り越し苦労が多く、石橋を叩いても渡らないほど慎重で、失敗も少ないです。 しかし、悪い面がでると、自己中心的で、他人に対する配慮が欠け、 愚痴っぽいので周囲の人から敬遠されがちになります。
このような人が神経症になると、非建設的な生活を送るようになり、性格のよい面は薄れて、 悪い面ばかりが表面にでます。うぬぼれが強く、見栄っ張りな性格は� �等感の塊と化します。
(2)ヒステリー性格 こちらの方がもっとひどいです。 子供の神経症はヒステリーの形をとることが多く、女性の神経症も男性に比べて ヒステリー傾向が強いです。ちなみにヒステリーはドイツ語の子宮「ヒステロン」からきていて、 昔は女性だけがなるものだと思われていました。当然そういうことはなく男性もなります。 なぜ女性の方に多いのかというと、物事を解決するのに男性は理屈や理性で解決しようとする のに対して、女性は感情的に対処しようとする傾向が強いからです。
ヒステリー性格の特徴は、わがまま、強い依存心、虚栄心、見栄っ張り、自己中心的、 極度の負けず嫌い、虚言傾向、短絡的などです。なんだかとても悪い性格のように見えますが、 もちろんいい面もありま� ��。負けず嫌いで虚栄心が強いので、勉強や仕事に打ち込めば立派な 成績を上げます。
神経症になりやすい性格を簡単に言うと偏った性格と言えます。
環境側の要因としては、家庭、学校、職場などにおける問題が考えられます。 家庭の問題としては、夫婦、親子、兄弟、嫁姑の問題があります。 学生の悩みには、自分の能力や容姿に関する劣等感、受験勉強、友人関係などについてです。 職場では、対人関係、仕事の内容、配置転換、転勤などです。 いっけんうつ病と同じような感じがしますね。その比較はあとで述べます。
これらの個体側の準備状態に心因が加わって生じるのが神経症です。 そして、その根底には不安というものがあります。
発生機序 神経症は、歴史的な経過を経て誕生した概念なので、いろいろな考え方があります。 これらのなかで精神分析理論、森田理論、学習論について説明いたします。
(1)精神分析理論 幼児期のある時期に周囲の人、特に両親の間で葛藤が起きると、 リビドー(性的エネルギー)の成長や発達が十分できなくなります。 ある時期とは口唇愛期、肛門愛期、男根期などに分けられる段階のことなのですが、 そのリビドーが不十分だとその段階で固着(止まる)ます。これが神経症の素質となります。 その後、何らかの心因がくわわったときに、そのひとのリビドーはその固着点まで退行します。 そして、抑圧を中心としたいろいろな防御機制(後述)が働き、神経症が発症します。 ここで、無意識の代表であるエス(意識外にあるそれ)、自我、超自我(道徳心や良心)の 間に内的な葛藤が生まれます。
(2)森田理論 森田理論では神経症を神経質とヒステリーの二つに大きくわけます。 神経質とは普通神経質(心気症)、強迫観念症(強迫観念症と恐怖症)、 発作性神経症(不安神経症)をさします。
森田理論では、人間には誰にでも「生の欲望」があるという前提があります。 「生の欲望」とは、長生きしたい、病気になりたくない、出世したい、人に褒められたい、 お金を貯めたい、知識を広めたい、向上発展したいなどのいろいろな欲望の総称です。 この「生の欲望」の精神的エネルギーが外界に向かって建設的に生かされているのが、 精神的に健康な人間と言うことになります。しかし、何かの拍子に、今まで外側に向かっていた 精神的エネルギーが自分自身の方に方向転換し、自分の心身の変化にとらわれて、 非建設的な生活態度になったものが神経症だと言っています。
「生の欲望」が外界に向かった精神的エネルギーなら、 自分自身に向かってきたエネルギー� �「死の恐怖」ということが言えます。 この両者の性質はもともと同じもので、その方向が異なるために建設的な人間にもなれば、 非建設的な人間にもなります。
「生の欲望」は誰でも生まれつき持っていますが、幼小児期の親や教師の指導によって、 大きくもなれば小さくもなります。そして、ある種の精神病(精神分裂病、躁うつ病など) にかかると「生の欲望」は挫折します。 また、神経症になりやすい神経質傾向を持った性格の人は、特に「生の欲望」が強いです。 完全欲が強いとも言えます。
神経質傾向を持った人が「生の欲望」に沿って建設的な生活をすれば 人並み以上にいい仕事をし、出世します。 しかし、「生の欲望」が挫折し、「死の恐怖」になるとこ れまた人並み以上に悩んでしまいます。
この人並み以上に悩むことを「ヒポコンドリー体験」といいます。 例えば、赤面をしないようにしようと思えば思うほど赤面するようなものです。 何をするのにも、すぐ赤面が気になるようになっていきます。これを「注意の集中」といい、 顔に神経が集中していくと自分でも赤面しているのがよくわかるのを「感覚の鋭化」といいます。 感覚が鋭くなると他のことは何も考えられなくなる、これが「意識の狭窄」と言うものです。 意識が狭窄すればするほど注意が集中し、注意が集中すればするほど感覚の鋭化が起こり、 さらに意識が狭窄する、こういう風にがんじがらめとなっていきます。 神経症はこのようにして発症します。
(3)学習理論 学習理論では不安は外界刺激に対する条件付けの結果であると考え、素質を重要視しません。 例えば、小さい頃に犬にかみつかれて怪我をした人が、 の後も犬を見るたびに「恐怖」を感じてしまうと言ったものです。 感情は学習によって身に付くということです。
防御機制 個体側と環境側の要因が重なり合って葛藤が生じ、それが不安を生み出し、その結果、神経症状態になります。 不安が生じると、人間にはそれを避けようとする心理的なメカニズム(防衛着せ)が働きます。 この防衛機制の違いによって、神経症のタイプも変わってきます。
(1)抑圧 不安や葛藤を無意識の中に押し込み、嫌なことを忘れ去ろうとする機制です。 無意識ではなく前意識(意志的に思い出せるもの)のうちに押さえ込んでることを禁圧と言います。 抑圧は指摘されても本人は気付きませんが、禁圧は「あ、そうか」とすぐに気がつきます。
(2)否認 嫌なことを認めようとしない、見まいとするような機制です。 否認し、そしてさらに、抑圧、禁圧するようになります。否認と抑圧はヒステリー患者によく見られます。
(3)補償 劣等感を補おうとする機制です。
(4)置換 「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ということです。問題となる対象を別の対象に 置き換える機制です。恐怖症で見られやすい機制です。不潔恐怖の女性患者の中には、 夫に対する不潔感や嫌悪感があって、それを不潔恐怖の別の対象に置換したと言うことがあります。
(5)分離 感情を切り離して、感情を述べないことです。よくしゃべる割りには淡々として、 それに感情が伴ったいないようなことです。失感情症などもこのようなものです。 強迫神経症に見られやすい防御機制です。
(6)取入れと同一化 他人のものを取入れて、自分のものとする機制です。 つまり、その相手と同じように振る舞うようになります。まねに近いのですが、 まねが表面的なのに対して、取入れと同一化はもっと内面までもまねしようとします。 攻撃的な人に同一化する「攻撃者への同一」などがあります。 小説の主人公などに自分を同化させることもこのことです。
(7)投影 自分のうちにあることを相手に投射して、自分にではなく、 まるで相手が持っているかのように考える機制です。 自分が相手を憎んでいるのに、相手が自分を憎んでいるように感じたり(被害妄想)、 自分が恋愛感情を抱いているのに、相手が恋愛感情を抱いているように感じたり(恋愛妄想)などです。
(8)反動形成 自分が考えているのとは反対の態度にでる機制です。 嫌いな相手に対して、逆に丁寧な態度をとるようなものです。強迫神経症で見られやすい機制です。 好きな子に、かえって嫌がらせをする子供の態度も反動形成の一種です。
(9)逃避 嫌なことからは逃げてしまう機制です。苦しい場面に遭遇したときに、 気持ちや身体が逃げ出します。学校嫌いの子供の学校からの逃避などです。 これは「現実から逃避」です。嫌なことの前に仮病になるのは「疾病への逃避」、 現実世界から空想の世界へと逃げ込む「空想へのと日」などが有名です。 これらは、現実の葛藤を正しく見つめて解決しようとしないもので、 未熟でヒステリー傾向の強い人に見られます。
(10)転換 不満や葛藤を抑圧して身体症状へと置き換えることです。 立てない、歩けないなどのヒステリーでの転換症状が有名です。
(11)退行 葛藤に直面すると子供帰りしてしまう機制です。 子供っぽくなることで、周囲からは同情され、周囲の人たちに協力してもらえるようになるわけです。
(12)分裂 相手を良い面と悪い面と分けて把握し、その一方の面しか見ようとしない機制です。 相手に対しては極端な態度にでることになります。 つまり、すべて良いか(理想化)かすべて悪いか(脱価値化、軽蔑)です。 異性関係ではほれっぽく(惚れ込み)しかも飽きっぽい人です。自分自身についても、 その一方の面しか見られず、総合してみることができないことになります。 神経症よりも病態が重い、境界パーソナリティ障害の人や幼い子供に見られます。
(13)知性化 悩みや葛藤を知性的なものに置き換えていく機制です。 インテリ風の女性に見られたりする機制です。失恋の痛手を勉強に励んで発散するのも知性化です。
(14)昇華 社会的に認められる方向で、葛藤を発散していく機制です。 芸術、スポーツ、学問などの社会的に高水準なことで葛藤を処理するものです。
神経症とうつ病の比較 神経症とうつ病はなんだかにていますね。 そこでこの二つの違いを表で表します。
神経症 うつ病 顔つき 訴えが多いが、元気がよい 言葉は少ないが青菜に塩のように げんなりしている 食欲・体重 食欲がないという人もいるが、 間食をしていて、体重は余り 減少しない 食欲がまったくなく、体重は一ヶ月 の間に10〜15sも減少する 不眠 不眠を訴えない人も多いが、 不眠を訴える人は入眠困難症 不眠は必発症状。 早朝覚醒型の不眠が多い。 気分の日内変動 日内変動はなく、いつも訴えが多い 気分は良かったり悪かったりを繰り返す。 朝方具合が悪く、夕方持ち直すことが多い 自殺 自殺を口にすることはあるが、 実行には移さない しばしば自殺を企てる 病前性格 自分本位 他人本位 治療 薬よりも精神療法 抗うつ剤がよく効く
精神分裂病と神経症との鑑別 精神分裂病と神経症との違いについても簡単に説明します。
神経症では、現実を正しく検討する能力は保たれていて、 自分が病気であると認識しています(病識があります)。 精神分裂病ではそれらが障害され、幻覚や妄想が出現することがあります。 神経症では原則として幻覚や妄想が出現することはありません。
神経症では話を聞いていても感情的疎通性が良好で、感情を移入することも可能ですが、 精神分裂病ではそれらが障害され、話の内容を理解する事が不可能なときがあります。 神経症では、なぜそうなったかを理解することができ、人格は障害されません。 精神分裂病では人格の障害が見られます。
神経症と精神分裂病の違いをまとめますと、神経症では
幻覚や妄想はありません。 意志の疎通が可能です。 病識があります。 現実を正しく理解することができ、 それについて考えることができます。 人格の障害はありません。 予後は比較的良いです。 不安障害 不安障害とは? 不安とはここのの不安と言うところで解説していますとうりに、「対象のない怖れ」のことです。 神経症は不安が症状の中心になることには変わりないことですが、 特に不安障害ではその度合いが大きいです。不安が前景に立ち、それによって 障害される疾患群を「不安障害」と言います。
不安には急性の不安と慢性の不安があり、急性に起きる不安状態を不安発作と言います。 不安発作には、激しい動悸が生じて心臓が苦しくなり死ぬような恐怖を体験する心臓神経症や、 ハアハアと呼吸が苦しくなって手足がしびれ、ときには失神発作を起こす過換気症候群などが あります。不安発作そのものは、治療をすれば治まりやすいです。 しかし、また発作が起こるので� �ないかという「予期不安」に悩まされます。
不安の症状には、精神症状と身体症状があります。 精神症状としては、恐れ、緊張、心配、恐怖、不穏、焦燥、苦悶、興奮などです。 身体症状としては、手指振戦、発汗、頻脈、嘔気、嘔吐、下痢、尿意、呼吸困難などです。
また、不安障害をその症状や特徴別に分類しますと、
全般性不安障害 根拠のない強い不安感に絶えず苦しめられる。 パニック障害 激しい不安のために発作が起きる。 恐怖症 ある特定の対象を異常に怖がる。 強迫性障害 心の底の不安や葛藤が、強迫行動や強迫観念にすりかわってしまう。 となります。 それでは、それぞれの疾患についてみていきましょう。
全般性不安障害 「様々な身体症状を伴って過剰で広範な憂慮」と定義されています。 その憂慮が患者の社会的、職業的機能を障害したり、困難の原因となっているものを言います。 また、この全般性不安障害では何らかの精神的疾患と共存していることが多いようです。 全般性不安障害には急な不安発作、パニック発作などはありません。 しかし、いつも不安な気分で、身体的な不安症状が消えません。 自分ではどうにもならない不安感にさいなまれるのです。