2012年5月18日金曜日

神経症


神経症

神経症に関するコーナーです。

そもそも「神経症」という言葉を比較的今の意味と同じように使いはじめたのは、 あのフロイトです。
神経症またの名を「ノイローゼ」とも言いますが、もともとは「末梢神経の病気」
と言う意味で使われていました。
フロイトの頃の精神科の大きな疾患のひとつに「ヒステリー」というものがありました。
ヒステリーというのは「突然歩けなくなる」「声が出ない」「手の感覚がおかしい」などの
末梢の神経がやられたのではないのか??と思わせるような症状となることが多く、
この病気を「神経症」と命名したのです。

しかし、実際に麻痺を起こす本当の原因は「心の中の不安」なのです。
つまり、末梢神経の病気ではないのです。
そこで、最近は医学的には神経症という言葉自体が使われにくくなってきています。
が、我々にとっては神経症という言葉の方がなじみ深いんですよね。

ここ では専門的な狭い意味(神経症と呼ばれていたもの)の神経症について述べていきます。

神経症とは?
「主として心因性に起きる心身の機能障害」と定義されます。
「主として」とあるのは、心因(心理的要因)以外にも、その人の素質や性格も関与してくるからです。
「機能障害」とは、身体の形が変わってしまうような形態的変化のある器質障害ではなく、
元に戻ることのできる病態という意味です。

神経症は、表面にでてくる症状(前景症状)によってさらにタイプが分けられます。
不安が前景に立つ不安障害、身体症状が前景に立つ身体表現性障害、
離人症状が前景に立つ解離性障害などです。
また、精神病(特に精神分裂病)でないことを確認することも必要となってきます。

発生の要因
神経症の発生要因には、個体側の要因(性格や素質)と、
環境側の要因(ストレス状況)の二つを考えないといけません。

神経症は状況次第では、誰にでも起こりうる病気なので、その点から考えると
どんな性格の持ち主でも生ずると言えます。ただ、神経症になりやすい性格としては、

(1)神経質傾向  大人に見られる普通の神経症によく出現します。
この性格傾向は親からの体質的・遺伝的に受け継がれる部分もあれば、幼小児期の
親のしつけや幼稚園・小学校の先生の指導など、環境的な因子から形成される部分もあります。

この神経質な面がよい方向に発揮されると、社会では模範的な人物になります。
取り越し苦労が多く、石橋を叩いても渡らないほど慎重で、失敗も少ないです。
しかし、悪い面がでると、自己中心的で、他人に対する配慮が欠け、
愚痴っぽいので周囲の人から敬遠されがちになります。

このような人が神経症になると、非建設的な生活を送るようになり、性格のよい面は薄れて、
悪い面ばかりが表面にでます。うぬぼれが強く、見栄っ張りな性格は� �等感の塊と化します。

(2)ヒステリー性格  こちらの方がもっとひどいです。
子供の神経症はヒステリーの形をとることが多く、女性の神経症も男性に比べて
ヒステリー傾向が強いです。ちなみにヒステリーはドイツ語の子宮「ヒステロン」からきていて、
昔は女性だけがなるものだと思われていました。当然そういうことはなく男性もなります。
なぜ女性の方に多いのかというと、物事を解決するのに男性は理屈や理性で解決しようとする
のに対して、女性は感情的に対処しようとする傾向が強いからです。

ヒステリー性格の特徴は、わがまま、強い依存心、虚栄心、見栄っ張り、自己中心的、
極度の負けず嫌い、虚言傾向、短絡的などです。なんだかとても悪い性格のように見えますが、
もちろんいい面もありま� ��。負けず嫌いで虚栄心が強いので、勉強や仕事に打ち込めば立派な
成績を上げます。

神経症になりやすい性格を簡単に言うと偏った性格と言えます。

環境側の要因としては、家庭、学校、職場などにおける問題が考えられます。
家庭の問題としては、夫婦、親子、兄弟、嫁姑の問題があります。
学生の悩みには、自分の能力や容姿に関する劣等感、受験勉強、友人関係などについてです。
職場では、対人関係、仕事の内容、配置転換、転勤などです。
いっけんうつ病と同じような感じがしますね。その比較はあとで述べます。

これらの個体側の準備状態に心因が加わって生じるのが神経症です。
そして、その根底には不安というものがあります。

発生機序
神経症は、歴史的な経過を経て誕生した概念なので、いろいろな考え方があります。
これらのなかで精神分析理論、森田理論、学習論について説明いたします。

(1)精神分析理論
幼児期のある時期に周囲の人、特に両親の間で葛藤が起きると、
リビドー(性的エネルギー)の成長や発達が十分できなくなります。
ある時期とは口唇愛期、肛門愛期、男根期などに分けられる段階のことなのですが、
そのリビドーが不十分だとその段階で固着(止まる)ます。これが神経症の素質となります。
その後、何らかの心因がくわわったときに、そのひとのリビドーはその固着点まで退行します。
そして、抑圧を中心としたいろいろな防御機制(後述)が働き、神経症が発症します。

ここで、無意識の代表であるエス(意識外にあるそれ)、自我、超自我(道徳心や良心)の
間に内的な葛藤が生まれます。

(2)森田理論
森田理論では神経症を神経質とヒステリーの二つに大きくわけます。
神経質とは普通神経質(心気症)、強迫観念症(強迫観念症と恐怖症)、
発作性神経症(不安神経症)をさします。

森田理論では、人間には誰にでも「生の欲望」があるという前提があります。
「生の欲望」とは、長生きしたい、病気になりたくない、出世したい、人に褒められたい、
お金を貯めたい、知識を広めたい、向上発展したいなどのいろいろな欲望の総称です。

この「生の欲望」の精神的エネルギーが外界に向かって建設的に生かされているのが、
精神的に健康な人間と言うことになります。しかし、何かの拍子に、今まで外側に向かっていた
精神的エネルギーが自分自身の方に方向転換し、自分の心身の変化にとらわれて、
非建設的な生活態度になったものが神経症だと言っています。

「生の欲望」が外界に向かった精神的エネルギーなら、
自分自身に向かってきたエネルギー� �「死の恐怖」ということが言えます。
この両者の性質はもともと同じもので、その方向が異なるために建設的な人間にもなれば、
非建設的な人間にもなります。

「生の欲望」は誰でも生まれつき持っていますが、幼小児期の親や教師の指導によって、
大きくもなれば小さくもなります。そして、ある種の精神病(精神分裂病、躁うつ病など)
にかかると「生の欲望」は挫折します。
また、神経症になりやすい神経質傾向を持った性格の人は、特に「生の欲望」が強いです。
完全欲が強いとも言えます。

神経質傾向を持った人が「生の欲望」に沿って建設的な生活をすれば
人並み以上にいい仕事をし、出世します。

しかし、「生の欲望」が挫折し、「死の恐怖」になるとこ れまた人並み以上に悩んでしまいます。

この人並み以上に悩むことを「ヒポコンドリー体験」といいます。
例えば、赤面をしないようにしようと思えば思うほど赤面するようなものです。
何をするのにも、すぐ赤面が気になるようになっていきます。これを「注意の集中」といい、
顔に神経が集中していくと自分でも赤面しているのがよくわかるのを「感覚の鋭化」といいます。
感覚が鋭くなると他のことは何も考えられなくなる、これが「意識の狭窄」と言うものです。
意識が狭窄すればするほど注意が集中し、注意が集中すればするほど感覚の鋭化が起こり、
さらに意識が狭窄する、こういう風にがんじがらめとなっていきます。
神経症はこのようにして発症します。

(3)学習理論
学習理論では不安は外界刺激に対する条件付けの結果であると考え、素質を重要視しません。
例えば、小さい頃に犬にかみつかれて怪我をした人が、
の後も犬を見るたびに「恐怖」を感じてしまうと言ったものです。

感情は学習によって身に付くということです。

防御機制
個体側と環境側の要因が重なり合って葛藤が生じ、それが不安を生み出し、その結果、神経症状態になります。
不安が生じると、人間にはそれを避けようとする心理的なメカニズム(防衛着せ)が働きます。
この防衛機制の違いによって、神経症のタイプも変わってきます。

(1)抑圧  不安や葛藤を無意識の中に押し込み、嫌なことを忘れ去ろうとする機制です。
無意識ではなく前意識(意志的に思い出せるもの)のうちに押さえ込んでることを禁圧と言います。
抑圧は指摘されても本人は気付きませんが、禁圧は「あ、そうか」とすぐに気がつきます。

(2)否認  嫌なことを認めようとしない、見まいとするような機制です。
否認し、そしてさらに、抑圧、禁圧するようになります。否認と抑圧はヒステリー患者によく見られます。

(3)補償  劣等感を補おうとする機制です。

(4)置換  「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ということです。問題となる対象を別の対象に
置き換える機制です。恐怖症で見られやすい機制です。不潔恐怖の女性患者の中には、
夫に対する不潔感や嫌悪感があって、それを不潔恐怖の別の対象に置換したと言うことがあります。

(5)分離  感情を切り離して、感情を述べないことです。よくしゃべる割りには淡々として、
それに感情が伴ったいないようなことです。失感情症などもこのようなものです。
強迫神経症に見られやすい防御機制です。

(6)取入れと同一化  他人のものを取入れて、自分のものとする機制です。
つまり、その相手と同じように振る舞うようになります。まねに近いのですが、
まねが表面的なのに対して、取入れと同一化はもっと内面までもまねしようとします。
攻撃的な人に同一化する「攻撃者への同一」などがあります。
小説の主人公などに自分を同化させることもこのことです。

(7)投影  自分のうちにあることを相手に投射して、自分にではなく、
まるで相手が持っているかのように考える機制です。
自分が相手を憎んでいるのに、相手が自分を憎んでいるように感じたり(被害妄想)、
自分が恋愛感情を抱いているのに、相手が恋愛感情を抱いているように感じたり(恋愛妄想)などです。

(8)反動形成  自分が考えているのとは反対の態度にでる機制です。
嫌いな相手に対して、逆に丁寧な態度をとるようなものです。強迫神経症で見られやすい機制です。
好きな子に、かえって嫌がらせをする子供の態度も反動形成の一種です。

(9)逃避  嫌なことからは逃げてしまう機制です。苦しい場面に遭遇したときに、
気持ちや身体が逃げ出します。学校嫌いの子供の学校からの逃避などです。
これは「現実から逃避」です。嫌なことの前に仮病になるのは「疾病への逃避」、
現実世界から空想の世界へと逃げ込む「空想へのと日」などが有名です。
これらは、現実の葛藤を正しく見つめて解決しようとしないもので、
未熟でヒステリー傾向の強い人に見られます。

(10)転換  不満や葛藤を抑圧して身体症状へと置き換えることです。
立てない、歩けないなどのヒステリーでの転換症状が有名です。

(11)退行  葛藤に直面すると子供帰りしてしまう機制です。
子供っぽくなることで、周囲からは同情され、周囲の人たちに協力してもらえるようになるわけです。

(12)分裂  相手を良い面と悪い面と分けて把握し、その一方の面しか見ようとしない機制です。
相手に対しては極端な態度にでることになります。
つまり、すべて良いか(理想化)かすべて悪いか(脱価値化、軽蔑)です。
異性関係ではほれっぽく(惚れ込み)しかも飽きっぽい人です。自分自身についても、
その一方の面しか見られず、総合してみることができないことになります。
神経症よりも病態が重い、境界パーソナリティ障害の人や幼い子供に見られます。

(13)知性化  悩みや葛藤を知性的なものに置き換えていく機制です。
インテリ風の女性に見られたりする機制です。失恋の痛手を勉強に励んで発散するのも知性化です。

(14)昇華  社会的に認められる方向で、葛藤を発散していく機制です。
芸術、スポーツ、学問などの社会的に高水準なことで葛藤を処理するものです。

神経症とうつ病の比較
神経症とうつ病はなんだかにていますね。
そこでこの二つの違いを表で表します。

神経症 うつ病
顔つき 訴えが多いが、元気がよい 言葉は少ないが青菜に塩のように
げんなりしている
食欲・体重 食欲がないという人もいるが、
間食をしていて、体重は余り
減少しない
食欲がまったくなく、体重は一ヶ月
の間に10〜15sも減少する
不眠 不眠を訴えない人も多いが、
不眠を訴える人は入眠困難症
不眠は必発症状。
早朝覚醒型の不眠が多い。
気分の日内変動 日内変動はなく、いつも訴えが多い 気分は良かったり悪かったりを繰り返す。
朝方具合が悪く、夕方持ち直すことが多い
自殺 自殺を口にすることはあるが、
実行には移さない
しばしば自殺を企てる
病前性格 自分本位 他人本位
治療 薬よりも精神療法 抗うつ剤がよく効く


精神分裂病と神経症との鑑別
精神分裂病と神経症との違いについても簡単に説明します。

神経症では、現実を正しく検討する能力は保たれていて、
自分が病気であると認識しています(病識があります)。
精神分裂病ではそれらが障害され、幻覚や妄想が出現することがあります。
神経症では原則として幻覚や妄想が出現することはありません。

神経症では話を聞いていても感情的疎通性が良好で、感情を移入することも可能ですが、
精神分裂病ではそれらが障害され、話の内容を理解する事が不可能なときがあります。
神経症では、なぜそうなったかを理解することができ、人格は障害されません。
精神分裂病では人格の障害が見られます。

神経症と精神分裂病の違いをまとめますと、神経症では

  1. 幻覚や妄想はありません。
  2. 意志の疎通が可能です。
  3. 病識があります。
  4. 現実を正しく理解することができ、
    それについて考えることができます。
  5. 人格の障害はありません。
  6. 予後は比較的良いです。


不安障害
不安障害とは?
不安とはここのの不安と言うところで解説していますとうりに、「対象のない怖れ」のことです。
神経症は不安が症状の中心になることには変わりないことですが、
特に不安障害ではその度合いが大きいです。不安が前景に立ち、それによって
障害される疾患群を「不安障害」と言います。

不安には急性の不安と慢性の不安があり、急性に起きる不安状態を不安発作と言います。
不安発作には、激しい動悸が生じて心臓が苦しくなり死ぬような恐怖を体験する心臓神経症や、
ハアハアと呼吸が苦しくなって手足がしびれ、ときには失神発作を起こす過換気症候群などが
あります。不安発作そのものは、治療をすれば治まりやすいです。
しかし、また発作が起こるので� �ないかという「予期不安」に悩まされます。

不安の症状には、精神症状と身体症状があります。
精神症状としては、恐れ、緊張、心配、恐怖、不穏、焦燥、苦悶、興奮などです。
身体症状としては、手指振戦、発汗、頻脈、嘔気、嘔吐、下痢、尿意、呼吸困難などです。

また、不安障害をその症状や特徴別に分類しますと、

  1. 全般性不安障害  根拠のない強い不安感に絶えず苦しめられる。
  2. パニック障害  激しい不安のために発作が起きる。
  3. 恐怖症  ある特定の対象を異常に怖がる。
  4. 強迫性障害  心の底の不安や葛藤が、強迫行動や強迫観念にすりかわってしまう。

となります。
それでは、それぞれの疾患についてみていきましょう。

全般性不安障害
「様々な身体症状を伴って過剰で広範な憂慮」と定義されています。
その憂慮が患者の社会的、職業的機能を障害したり、困難の原因となっているものを言います。
また、この全般性不安障害では何らかの精神的疾患と共存していることが多いようです。

全般性不安障害には急な不安発作、パニック発作などはありません。
しかし、いつも不安な気分で、身体的な不安症状が消えません。
自分ではどうにもならない不安感にさいなまれるのです。


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(1)症状
全般性不安障害の主な症状は、不安、運動性緊張、自律神経系の過剰活動、認知的過覚醒です。
不安は過剰で患者の様々な生活の側面が障害されてきます。
運動筋肉の緊張は振戦、落ち着きのなさ、頭痛などが頻繁に見られるようになります。
自律神経の過剰活動では呼吸がはやくなったり、多汗、動悸や胃腸症状が見られるようになります。
認知的過覚醒とは、患者がちょっとした刺激に反応したり、驚きやすくなることが顕著です。

診断基準は以下の通りです。

  1. (仕事や学校などの)多数の出来事、活動について過剰な不安と心配が、
    6ヶ月間起こる日の方が起こらない日よりも多い。
  2. 本人が心配を制御するのが難しいと感じている。
  3. 以下の症状のうち3つ以上あてはまる。
    1,落ち着きのなさ、緊張感、過敏になっている。
    2,疲れやすい。
    3,集中困難、心が空白になる。
    4,易刺激性
    5,筋肉の緊張
    6,睡眠障害(入眠、睡眠維持の困難、熟眠感がない)

(2)原因
全般性不安障害の原因ははっきりと分かっていません。
定義のようにいろいろな患者さんがなる可能性があります。
ある程度の不安は正常で適応的であるので、病的不安と正常な不安を区別することや、
心理社会的要因、生物学的要因を区別することは難しいです。

生物学的要因
簡単に言うとセロトニン系の調節の異常と考えられています。
大脳基底核、大脳辺縁系、大脳皮質などでの神経伝達が
うまく行かないためではないかといわれています。

心理社会的要因
二つの考え方があります。
ひとつめは、誤って不正確に認知された危険に対して反応しているため、
もう一つは、不安は解決されない無意識の葛藤の症状であるという考えです。
何らかのストレスが引き金によって起こるものだと思います。

(3)治療と経過
比較的慢性な病気なので、治療を開始してもすぐに治ることはあまり期待できません。
また、他の精神疾患や身体疾患を合併していることが多いので、
そちらの方も治療することが必要です。パニック障害のように急を要するようなものではないので、
気長に構えることが大切です。

治療は精神療法と薬物療法を組み合わせて行っていきます。

精神療法
認知行動療法、支持療法、力動精神療法などが行われます。
支持療法では患者に元気づけと安心を提供するが、長期的な有効性は疑問が残ります。
不安は探求に値する無意識の混乱の信号です。
その、不安の源をさぐり、それに対しての体験能力を上昇させるのが力動精神療法です。
不安そのものをといりの続のを主題としていません。
不安症状が自分の内的葛藤の信号だと知ることが大事です。

薬物療法
主に使われるのはベンゾジアゼピン系の薬物とブスピロンです。
その他いろいろな薬が使われるようです。

パニック障害
「自然発生的な予測のできないパニック発作を特徴とし、発作を繰り返す」ものです。
パニック発作は比較的短時間(通常は一時間以内)持続する、強い恐怖または不安です。
動悸や、息苦しいなどの身体症状も伴います。
パニック障害の患者さんがパニック発作を感じる頻度はまちまちで、
1日数回のこともあれば、一年間に1,2回のこともあり、内科などで他の体の病気や
ヒステリー症状と誤診されることが多くあります。

また、パニック障害には必ずと言っていいほど「広場恐怖」が伴います。
広場恐怖とは、「今いるこの場所が、逃げられない場所だと考え、激しい恐怖に恐れる」と
言ったもので、起きる場所として、駅、電車やバスの中、デパート、エレベーター、地下鉄など、
公の場所が多く、そのため社会生活能力が著しく障害されることが問題となっていきます。
本来は恐がる必要のない場所ばかりであり、本人たちも頭の中では「恐がる必要はない」
と思っています。」しかし、理屈よりも先に恐怖がでてきてしまうのです。

特に、パニック発作が起きて、どこかに逃げたいのに逃げられない、
そういう場所にいるとなると非常な恐怖におそわれ、発作はいっそうひどいものになります。

(1)症状
パニック発作
「予想つかない、自然にわき出るパニック発作」がメインです。
パニック発作の診断基準としては、強い恐怖または不快を感じ以下のうち4つ以上が突然出現し、
10分以内に不安が頂点に達するもの。

  1. 動悸、心悸亢進、心拍数の増加
  2. 発汗
  3. 身震い、震え
  4. 息切れ感、息苦しさ
  5. 窒息感
  6. 胸痛、胸部不快感
  7. 嘔気、腹部の不快感
  8. めまい、ふらつき
  9. 現実感消失、離人症状
  10. 気が狂うことに対する恐怖
  11. 死ぬことに対する恐怖
  12. 異常感覚(感覚麻痺)
  13. 冷感、熱感

パニック発作はパニック障害ではない他の精神障害でも出現することはあります。
例えば、特定の恐怖症、社会恐怖、PTSDなでです。
これらの場合のパニック発作ははっきりとした引き金となって発作が起きるものです。
パニック障害の場合では青天の霹靂のようにでてくるので、引き金を同定することはできません。

パニック障害
最初のパニック発作はまったく自然発生的に出現します。
中には、興奮や身体的運動、性行動で生じることもあるようです。
パニック発作が始まると10分ほどで急速に症状が悪くなることが多いようです。
主な精神症状としては、死が迫ってくる感じ、死と身の破滅の感覚、極度の恐怖です。
この恐怖の原因がなんであるかを特定することができません。
身体症状としては、頻脈、動悸、呼吸困難、発汗などです。
また、その場から立ち去ろうとします。発作は通常20〜30分続きます。
心臓や呼吸器系に症状がでるのでなおさら死が身近に感じられてしまうようです。
発作が消失したあとでも、またこの発作が来るのではないだろうかといった
予期不安」を持つことが多いようです。

広場恐怖
広場恐怖の患者さんは助けが求められないような場所や状況をできるだけ避けようとします。
車や人通りの多いところ、混雑したところ、地下鉄、電車、飛行機、エレベーターなど公共性の
強いところで友人や家族と一緒にいることを望みます。
外出するときも誰かと一緒じゃなきゃいやだと主張することが多くなります。

その他
パニック障害の場合、同時に抑うつ症状を持っていることがよくあります。
20〜40%に合併しているともいわれており、特に自殺には気をつける必要があります。
その他には、仕事ができにくくなるために経済困難、
アルコールや薬物乱用などの心理社会的問題があることが多いようです。

(2)原因
何らかのストレスが原因となって、自律神経のバランスが崩れ、神経伝達物質の
変化によって引き起こされるものと考えられています。

生物学的要因
パニック障害では自律神経の交感神経の緊張が亢進していることがまず第一です。
つまり、戦闘態勢に入っているのですね。その敵がなんだかわからないのですが。
また、繰り返される刺激に対する反応が遅いこと、
ちょっとした刺激にも過剰に反応しやすくなっています。

パニックを誘発する物質として二酸化炭素や神経伝達物質があります。
神経伝達物質はノルアドレナリンやセロトニン、GABAなどの受容体に拮抗(邪魔)する
ように働く物質がパニック障害に関係していると考えられています。
本来は神経伝達物質がつくべき受容体に先回りして穴をふさいでしまいます。
それで、次の神経に刺激が伝わらないことが不安などの正体と考えられています。

遺伝的要因
精確な調査はまだ行われていないようですが、報告では一親等者間での
パニック障害は4〜8倍の確率で発生しやすくなっているそうです。

心理社会的要因
パニック発作は逃げられない場所にいると感じたときに起きるのですが、
実際のところその場所は逃げられない場所ではないはずです。
しかし、そのものに対するその人の捉え方がゆがんでしまったためにそう感じるようになります。
これを「認知のゆがみ」といいます。

別の考えでは「分離不安」があります。これは、不安を呼び起こすような刺激に対する
自己防衛が追いつかなくなったために起こるのです。
例えば、幼い頃親を亡くした人が、公の場所に1人でいると、
昔みたいまた見捨てられるのではと不安がよみがえってくると言ったものです。

また、パニック発作は青天の霹靂のように出現しますが、何らかのストレスが原因、
引き金によ� �て起きているのは間違いないようです。

(3)治療と経過
比較的長い経過をたどる病気ですが、患者によっても異なってきます。
30〜40%の患者では長期間無症状のようです。また、50%の患者では症状が軽く、
生活が脅かされるものではない模様です。10〜20%に症状の持続がみられているようです。

一回や二回くらい発作が起きても意外と無関心でいるようですが、
発作が繰り返されると症状がでるようです。1日に数回起こることもあれば、
月に一度も起きないこともあります。
カフェインやニコチンを過剰に摂取すると症状は悪化するようです。

うつ病ではかなりの確率で合併してきますが、自殺企図には気をつけないといけません。
依存症に陥りやすいこともあります。

治療法は薬物療法と認知行動療法です。ほとんどの患者さんで劇的に症状の改善がみられます。
症状が改善してくれば、恐怖の対象となるもの(デパートや電車)を実際に利用していくようにします。

薬物療法
抗うつ薬、MAO阻害薬、SSRI、ベンゾジアゼピン系薬物などが使われます。
抗うつ薬の中ではクロミプラミンやイミプラミンが有効のようです。
うつ病のときと違い、少量でもよく効きます。治療期間は8〜12ヶ月ほど継続して行われます。
治療を中断することによって再発の確率はアップします。

認知行動療法
まず、ゆがんだものの見方を修正しなければなりません。
また、パニック発作が起きても時間がたてば消失し、死には至らないことを理解しておきます。

あとは自分がリラックスできる方法を見つけたり、深呼吸やゆっくり呼吸するように勧めます。

恐怖症
普通なら恐れる必要のないものや状況に対して恐れることを恐怖症と言いますが、
不安と違いその対象がはっきりとしています。恐怖症は対象に対する強迫神経症のようなものです。
この対象に対して色々と命名されます。ここでは、パニック障害の時にでてきた
広場恐怖の他に、対人恐怖症と、社会恐怖、特定の恐怖症について説明していきます。

対人恐怖症
特に日本人に多い不安障害の一つです。
「他人と同席する場面で、不当に強い不安と精神的緊張を生じ、
そのために他人に軽蔑されるのではないか、嫌がられるのではないかと思い、
対人関係からできるだけ身を 退こうとする神経症の一型」となっています。

多くは対人関係をできる限り避けようとする反面、それをふがいなく思い克服しようとする一面もあります。

対人恐怖の場合は、「1対1」の局面に緊張し、親しい人と見知らぬ人の中間ぐらいの人との
時に症状がでやすいようです。思春期、青年期の病気で、男性に多い傾向にあるようです。
ひどく緊張するため相手の目を見て話すことができず、落ち着いていられません。
なるべく早くその場を立ち去ろうとし、できるなら会わないでおこうと努力します。

対人恐怖の中には、重症の対人恐怖作用の一群があります。「思春期妄想症」と言われるものです。
「自分の身体の異常のために周りに迷惑をかけているのではないか」という妄想的確信がありま� �。
これら思春期妄想症には自己臭妄想症、自己視線恐怖、醜形恐怖がありますが、これについては後で述べます。

原因は様々考えられていますが、「対人関係の持ち方に対して、非常に甘えが強い」
と言うことが言われています。対人関係がまだ確立してなく、甘えていいかどうかわからない、
自分を受け入れてくれるかどうかはっきりしない相手に対してひどく緊張して、対人恐怖になりやすいようです。

治療は特にありません。
まれに、抗精神病薬を使うこともありますが、グループディスカッションなどによって集団生活に慣れていくようにします。
年齢と共に次第に対人恐怖は消失していくものです。

社会恐怖
「よく知らない人の前では、食事をしたり話を� �たり何らかの行動をするのが恐くてたまらない」
と言ったものです。他人の視線が気になるあまり起きて来るものです。
ここであなたの社交力をチェックしてみましょう。
どうでしたか?

社会恐怖自体日本では現実問題となることがあまりありません。
日常生活でなんなかの問題が生じてくるようなケースも少ないようです。原因はよくわかっていません。
しかし、人前で話すことがいる職業(歌手、俳優、政治家など)で、人前で話すのが恐くなったりしたら大変です。
この場合、行き過ぎると転換性障害と言った診断名がつくことがあります。

診断基準は

  1. 知らない人の前で恥をかいたり、恥ずかしい思いをしたりするのを恐れ、行動したり不安症状がでるのを恐れる。
  2. ことによってはパニック発作が出現する。
  3. 本人は意識しすぎだと自覚している。
  4. そういった状況を避けたり、そのような状況の時は我慢している。
  5. 社会生活に支障をきたす。
  6. 他の精神疾患にはあてはまらない。

などです。

治療としては、抗不安薬、SSRIなどが用いられます。
精神療法としては、暴露療法(あえて苦痛の感じる状況にして、なれさせる)、力動精神療法などが用いられます。

特定の恐怖症
明白に限定された対象に対して、恐怖しそれを回避しようとする状態です。
本人は恐がるのはおかしいと思っていても、どうしようもない状態です。
分類すると

  1. 動物型  特定の動物(犬、馬、蛇、くも)などを極端に恐れる。小児に多く、5歳以降ではほとんど生じない。
  2. 自然環境型  嵐、高所、水、雷など。
  3. 血液・注射・外傷型  血液を見たり、傷口を見たり医療的行為に恐怖する。
  4. 状況型  公共の輸送機関、トンネル、橋、エレベータ、飛行機など。
  5. その他

となっています。
あまりにもひどいとパニック発作を起こすこともあります。
原因としては、単純に対象が恐い場合と心の中の葛藤が特定の対象に転化している場合があります。
診断基準は

  1. 特定の対象に対して、理屈に合わない強い恐怖を感じる。
  2. すぐに強い不安におそわれ、パニック発作を生じることもある。
    本人の頭の中では理屈よりも先に恐怖を感じてしまう。
  3. 恐怖の対象をできるだけ避けているか、苦痛や不安を感じながらたえている。
  4. 日常生活に支障がある。

となっています。
年齢を重ねると自然によくなっていくものですが、治療は暴露療法が主です。抗不安薬などを使うこともあります。

先端恐怖
鉛筆、針、フォークなどの先のとがったものを見ると、それが目に刺さってしまうのではないかと被害的に恐れる状態です。
または、それを手にしたら誰かを傷つけてしまうのではないかと加害的な観念が浮かんで、恐怖にかられる場合もあります。

疾病恐怖
自分が何か悪性の病気にかかったと恐れる状態です。
その恐れとなる病気によって細菌恐怖、エイズ恐怖、梅毒恐怖、癌恐怖などがあります。
医師が診察、検査して心配ないと保証しても、再三受診したり、病院を変えたりします。

強迫性障害(強迫神経症 )
ばかばかしい、不合理であるとわかっていてもやめることのできない、「わかっちゃいるけどやめられない」症状を強迫症状と言います。
この強迫症状が前景に立つ神経症が強迫性障害(強迫神経症)です。

強迫観念
強迫観念とは、ばかばかしいとわかっていても、ある考えが浮かんできて困るものです。
例えば、「ドアの鍵をかけたか」「ガス栓をとしたか」「封筒に切手をはったか」などの考えが、追い払っても浮かんでくるものです。
内容では「不潔」「汚れ」に関してが一番多く、次に「「他人を傷つけたのではないか」、
そして「身体的」「セックス」「宗教的」なものとなっています。
ひどい場合は、「殺人をしたのではないか」という考えが浮かんで、新聞を読んで� ��殺人をしていないかを確認することもあります。
周囲の人に聞いてまわる、質問癖というのも見られます。

強迫行為
ばかばかしいとわかっていても、ある行為を繰り返しせざるを得ないものです。強迫観念に基づくものが多いです。
何回も手を洗う洗浄強迫、何回も確認する確認強迫、寝る前に儀式的行為を行う就眠儀式などがあります。
不潔恐怖をうち消すために手を洗う、つまり強迫観念をうち消すために強迫行為をすると言うことになります。

強迫性格
強迫状態を呈しやすい人は、強迫性格があると言われています。
強迫性格とは、良心的、几帳面、杓子定規、融通性・柔軟性の欠如、ささいなことにこだわる、
ケチ、自信欠乏、完全癖の強い性格をさします。自己不 確実性性格ともいい、小心な性格です。
また、強迫症状には自分で確認している「自己完結型」と、確認のために他人も巻き込む「他者巻き込み型」の
二つのタイプに分けられ他者巻き込み型は女性に多く、より重症感があります。


子供のchadd障害

(1)症状
強迫観念・行動は「精神分裂病」の妄想とよく似ています。しかし、実際は大き違います。
強迫神経症では「自分でもおかしい」思っています。分裂病では病識はありません。そこが大きな違いです。
わかっちゃいるけどやめられない状態で、それをきちんと言葉で言うことができるのです。
一方、分裂病の場合は自分の行動にまったく違和感を覚えません。

一般的によく見られる症状は、「汚いもの」に触れることに対する恐怖から、
トイレに入れない、何十分も手を洗い続ける、体を洗い続ける、服を着替えるなどがあります。
また、「何度も同じことを繰り返す」儀式的な行動もよく見られます。厳寒の敷居 をまたぐタイミングが決められず、
玄関の前でいったりきたりを繰り返したりするものです。

例えば、目の前に他人の尿が入ったコップがあるとします。そして、それを洗って水を飲むことにしましょう。
何回洗ったら気が済み、水が飲めますか?おそらく何回も洗わないとなかなか水は飲めませんよね。
このことは、正常な人でも状況によっては、何回も洗うというような強迫的になることを示しています。
一般に、その人にとってとても大事なことは正常人でも何度も確認をするものです。
大学受験の願書や就職関係の資料などは念入りにチェックしたり、確認したりしますよね。
しかし、強迫神経症の場合はそれほど大切ではないことに関してこだわってしまうと言うことが言えます。

診断� ��準は以下の通りです。
強迫観念

  1. あることを何度も考え、衝動、心に引っかかり、自分でも理屈に合わないとわかっているが、
    やめたいがどうしても浮かんできてしまうため、強い不安や苦痛を引き起こす。
  2. その思考、衝動、イメージは単に現実生活の問題についての過剰な心配ではない。
  3. 強い不安や苦痛を取り除くために、他の行動や考えでうち消そうとする。
  4. 自分でもその間替え、衝動、イメージは自分自身の心の産物であるとわかっている。

強迫行為

  1. 何度も同じ動作を繰り返したり、心の中で考えたりする。強迫観念に反応したり、
    厳しい規則などに従って行動したりしなけらばならないと感じている
  2. 行動や心の中で考えたりすることは、苦痛を予防したり、緩和したり、
    何か恐ろしい出来事や状況を避けるとこと目的としています。

以上のことをふまえて、

  1. 本人が強迫観念、強迫行為に関しておかしいと思っている。
  2. 強迫観念や強迫行為によって、1日の大半を浪費したり、社会生活に支障をきたす。
  3. その他の精神的疾患などが存在しない。

です。

(2)原因
大部分は何らかのきっかけによって、突然発症します。
それが、受験、失恋、妊娠などのストレスをきっかけに発現したりもします。
多くは20歳前後で発症することが多いようです。思春期では男性の方が若干発生しやすいようです。
既婚者よりも未婚者の方が発症しやすく、35歳以降での発症の例もあります。
他の精神障害にかかっていることが多く、67%でうつ病、25%で社会恐怖などが見られます。

生物学的要因
セロトニンの調節の失調が原因であると考えられています。
またかなりの遺伝的要因が強いようと考えられてもいます。
父か母のどちらかが強迫神経症である場合、35%に発症するとも言われています。

行動� ��的要因
ある特定の行為をすることで不安が減少すると言うことを経験的に学びます。
そのために、強迫行為や儀式的行動によって不安を制御するために行います。
不安という苦痛を伴うもので、強迫行為というものが効果的だと学習するのです。

心理社会的要因
強迫性人格を持っているかといって強迫神経症になるとは限りません。
大部分の患者さんは病前では強迫症状を持っていないことが多いようです。
強迫傾向を持っているのは15〜35%程度に過ぎません。

子供の発達段階において肛門期の重要な特徴として、両価性と言うものがあります。
これは同一の対象、例えば親とかに対して、愛情と殺したくなるような憎しみの両方を、時に同時に感じる ことを言います。
これと同じようなことが強迫神経症の患者さんにも見られます。
この相反する感情の葛藤によって、実行打ち消し行動や優柔不断などとなってきます。

(3)経過と治療
あまりよく治りにくいようです。
治療することで30%は非常によくなり、50%はある程度改善し社会生活に困らないレベルになりますが、
残りの20%は日常生活に支障をきたすようなことが多いようです。
また、治療に抵抗性を示しやすく、非協力的です。うつ病を合併していることも多く、自殺の危険性がかならずあります。
一般的な治療としては、薬物療法と行動療法的治療が行われます。

薬物療法
抗うつ薬特にクロミプラミン(アナフラニール)などがよくきくようです� ��その他にはSSRIなども用いられます。
その他にはリチウム(リーマス)やMAO阻害薬などが使われることが多いようです。

行動療法
薬物療法と同等の効果があるとされています。原則は暴露と反応防止です。

身体表現性障害
身体表現性障害は十分に医学的な検査を行っても原因が分からない症状がでるものです。
ストレスや不安、葛藤などが原因になっていることが多く、身体症状の訴えはとても重症感があります。
それによって社会生活などに支障をきたすものを言います。

身体表現性障害には大きく5つのものがあります。

  1. 心気症  患者自身が何か特別、重大(癌、エイズなど)の病気にかかっていると思い込むことを特徴とします。
  2. 転換性障害  1つか2つの神経学的な症状(声が出ない、歩けない)によって特徴づけられます。
  3. 身体化障害  色々な身体の症状(腰痛、腹痛など)を訴えることを特徴とします。
  4. 身体醜形障害  自分の体の一部に欠陥があるという誤った考えによって、人前にでられなくなることを特徴とします。
  5. 疼痛性障害  心理的な要因で出現したり悪化したりする痛みを伴うことを特徴とします。

身体性障害で問題となってくるのはうつ病との鑑別です。
うつ病がないかどうかを調べることも必要となってきます。
また他の精神障害と関連があることが多いので、注意する必要があります。

心気症
ささいな体の調子の崩れから、自分は大病にかかったと思いこみ、
病院で色々検査して以上が見あたらなくても安心できなず、執拗に訴えるものです。
患者にとってそのとらわれが大きな苦悩の原因となり、個人的役割、社会生活、職業上に影響をでてくるものを言います。
一般内科にかかった4〜6%は心気症であったという報告もあります。

(1)症状
まだ発見されていない重篤な病気にかかっていて、そうではないと思うことができません。
たとえば� �医学生が講義や実習で見た症例を自分にもあるのではないかと不安になったり、
何かの本を読んで自分にあてはまることがあったり、近親者が病気になり死亡したりし、
その近親者と同じ変調を感じたりすることあがあります。
訴えで多い自覚症状としては、頭が重い、頭痛、不眠、めまい、肩こり、耳鳴り、腹痛、食欲不振、性欲減退、腰痛、
手足のしびれ、体の不調、集中力の減退の度ですが、医学的、他覚的には特別な所見は見つかりません。
「自分はガンではないか」と思うことが多く、納得いかない場合はいわゆる「ドクターショッピング」に走ることもあります。
このように患者さんの確信は強いものがありますが、妄想ほど固着はしていません。
心気症は抑うつや不安症状と結びつくことが多いで� ��。

診断基準は以下の通りです。

  1. 腹痛、頭痛などのささいな身体の不調を誤って「ガンではないか」など重病化し、
    それに対する恐怖やそのかんがえが頭から離れない。
  2. そのとらわれは医学的な評価を受けても変わることなく離れない。
  3. 患者の確信は妄想のように頑固さはない(ガンではないかもと思うこともある)、
    醜形恐怖のように外見についての心配だけではない。
  4. 強い確信のために強い苦痛を感じたり、社会的、職業的などで障害がでている。
  5. この状態は6ヶ月以上続いている。


(2)原因
心気症になりやすい人は身体的な不快感について、その閾値と耐性が普通の人より低いと言われています。
つまり、普通の人がお腹を押されてるなって感じるものを、腹痛と感じてしまうようです。
また、心気症状によってうち勝ちがたい困難な問題に直面している人が、
疾病役割を認めてもらいたいという心の現れでもあると言われています。
つまり、疾病という逃げ道を用意して、有害な責任から逃れ、受け入れたくない難題を後回しにすることを
許されるのではないかと考えるからです。一種の仮病みたいなものですね。
また、他の精神障害の変形の現れであるという考えもあります。心気症の人の80%はうつ病か不安障害を持っています。
さらに心気症になり� ��すい性格としては、いわゆる神経質性格があてはまります。

心気症の症状は、孤独や挫折、失恋などのストレスなどによって引き起こされるケースが多く、
本当の不安は別のところにあるのですが、その不安が体の不安に置き換えられたものと考えることができます。

(3)経過と治療
長い経過をとりますが、半分以上の方はよくなります。自分が納得いかないと、ドクターショッピングなどの走りますが、
そうすることは慢性化する原因となります。一般的に精神科的治療に抵抗を示すことが多いようです。
体が悪いと思っているので、やはり心が病んでいると言うことには抵抗するのは当然と言えば当然ですが。
原因なるストレスの縮小と慢性疾患に対する対処法を教育していく形� ��なります。
薬物療法は不安障害やうつ病などがあるときなどには行われます。そうすることで心気症状を緩和することができるようです。

転換性障害
いわゆるヒステリーのことですが、現在ではヒステリーという言葉は使われません。
昔ヒステリーと言われていた言葉には3つの意味があり、ヒステリー性格、ヒステリー症状、ヒステリー神経症と言うものです。

ヒステリー性格
ヒステリー性格とは、小児的、未熟的、感情不安的、非暗示的、自己中心的、演劇的、
誇張的、自己顕示的などの性格をさすものです。大まかにまとめると、

  1. 未熟性(幼稚っぽい)
  2. 感情易変性(感情が変わりやすい)
  3. 自己顕示性(目立ちたがり屋)

となります。

ヒステリー症状には転換型と解離がとの二つに分けられます。
転換型を転換性障害と呼びますが、葛藤が抑圧され歩けない、声が出ないなどの身体症状となって表出してくるものです。
つまり、葛藤が身体症状に転換(置き換わって)出てくるのです。解離型のヒステリー症状は詳しくは別の項で説明しますが、
意識面、記憶面、自我同一性の面などに症状が現れるものをさします。
具体的では、もうろう状態、蒸発、全生活史健忘、二重人格などを呈します。

ヒステリー症状を疑う特徴としては、症状に象徴的な意味があったり、疾病利得、疾病への逃避、
満ち足りた無関心などの存在があります。疾病利得とは、病気になることで特をすることで、これに� ��2つのタイプがあります。
一つ目は、病気になることで、自分の内的な葛藤を意識の外に置くことで、しばらくの期間ストレスから逃げられる特です。
もう一つは、病気になることで他人からの同情や援助、愛情を受けられると言うものです。
また、満ち足りた無関心とは、疾病にかかっていると言うことに満足し、
それほど悲観的であったり、ショックの様子が薄いと言うことです。さらに、ヒステリー症状は仮病との鑑別が難しくなってきます。
ヒステリー症状の訴えは、わざとらしく、オーバーで、しかも他人が見ていないと症状が消失したりします。

では、転換性障害についてもう少し詳しく見ていきましょう。

(1)症状
最もよく見られる症状として、突然動� ��なくなる、手が動かない、声が出ないなどの「運動麻痺」
そして、手足や顔の感覚がなくなるという「感覚麻痺」です。

  1. 感覚症状  無感覚症と知覚異常がよく見られます。特に手足で見られることが多く、
    手や足が靴下や手袋をしたような範囲で感覚がおかしくなったり、きちっと体の半分だけがおかしくなったりします。
    (神経学的にはそういうことにはなりません)また、特殊な感覚器官、つまり、眼や耳に症状が出ることがあります。
    眼だと、トンネルのように真ん中が見えなかったり、半分が見えないと患者さんは訴えます。
    その割りに、傷を負ったり、転んだりもせずにきびきび歩けるのは不思議です。
  2. 運動症状  異常な動き、歩行障害、筋力低下、麻痺などです。大きな振戦や筋肉のけいれん、
    チックなどがあらわれます。歩行障害では立てなかったり歩けなかったりします。こういった患者さんでも滅多に転倒しません。

診断基準は以下の通りとなっています。

  1. 神経疾患や身体疾患を疑うような症状が一つ以上存在する。
  2. 症状の発症に強い葛藤やストレスが関係している。
  3. これらの症状は意図的に作られたものではない。
  4. 色々調べてみても、十分に説明が付かない。
  5. これらの症状によって社会的、職業的などの障害を起こしている。
  6. 他の疾患が見あたらない。


(2)原因
先にも出てきたように、内的な葛藤の抑圧によるもので、不安が身体症状へと転換したものです。
転換性障害の症状は葛藤と象徴的な関係を持っています。
患者は症状によって自分に特別な配慮と治療を必要としているのだと訴えることができます。

(3)経過と治療
およそ90〜100%の人は初発症状から2、3日または一ヶ月以内に解決されることが多いようです。
また、75%の人は転換性障害を繰り返すことはなく、25%はストレスのある時期にまた繰り返します。

ほとんどの場合は自然に治りますが、支持的療法や行動療法によってはやく治すことが可能です。
ストレスが原因だとか、心の病気だと患者に告げることで症状が悪化� ��たり、治療に抵抗性を示すこともあるので注意がいります。
抗不安薬なども有効です。

身体化障害
歴史的には、これもヒステリーの一種類であり、ブリケ症状群とも呼ばれていました。
30歳以前に発症し、何年にもわたって持続する様々な身体症状を持っているもので、
痛み、胃腸、性的、神経学的所見を思わせるものなどの症状の組み合わせによって特徴づけられます。

(1)症状
基本的な特徴は症状が何度も繰り返され、多彩で、長期に及びます。病歴をきくと状況的で、あいまいで不明確、一貫せず、
まとまっていないことが多いようです。症状を訴えるときは、劇的かつ感情的、大げさで、生き生きとした多様な言葉で訴えます。
診断基準を以下の通りにあげま� �。

  1. 30歳未満に始まった多数の身体的訴えの病歴で、数年間にわたって持続しており、治療を求め、
    社会的職業的に障害を生じているもの。
  2. 4つの疼痛症状  少なくとも4つの異なった部位または機能に関連した痛みを持っていること。
    (頭部、腹部、背部、関節、手足、胸部、直腸、月経時、セックス時、排尿時)
  3. 2つの胃腸症状  疼痛意外に少なくとも2つの胃腸症状の病歴を持っている。
    (嘔気、お腹がはる、妊娠時以外の嘔吐、下痢、数種類の食物への嫌悪)
  4. 1つの性的症状(これはなくてもよい)  疼痛以外に少なくとも1つの性的または生殖器症状の病歴を持っている。
    (性的無関心、勃起または射精機能不全、月経不順、月経過多、妊娠中を通じての嘔吐)
  5. 1つの偽神経学的症状  疼痛に限らず神経学的疾患を思わせる少なくとも1つの症状または欠損の病歴を持っている。
    (うまく歩けない、フラフラする、麻痺、脱力、嚥下困難、失声、尿閉、幻覚、触覚または疼痛の消失、ものが二重に見える、
    見えない、聞こえない、けいれん、意識消失)
  6. これらの症状がどの病気にもあてはまらず、薬物乱用などの結果ではない。
  7. 予想される社会的、職業的障害よりも遙かにひどく障害を受けている。
  8. 症状が意図的に作られたり、ねつ造されたものではない。

心理的な闇や対人問題があることもあり、不安や抑うつがよく見られます。

(2)原因
身体化障害で見られる特徴的な性格としては、依存的で自己中心的です。賞賛や賛美を渇望しています。
例えば、女性の場合露出度の高い服装をしたり、周りを操作したりします。
転換性障害と同様にストレスや不安が、身体症状としてでてきたものと考えられます。
身体化障害の半近くに、他の精神障害の存在があります。うつ病や不安障害、精神分裂病などが特にそうです。
心気症はある特定の疾患にかかっていると思っているのに対して、身体化障害では多種多様に及びます。
転換性障害の場合は、神経学的症状が1つか2つにとどまります。疼痛障害の場合は、疼痛症状の1つか2つにとどま� ��ます。

(3)経過と治療
完全によくなることは珍しいです。
治療の目的は、「症状はあっても、社会生活が困らないようにする」程度になります。
治療に対しては、本人がストレスから来るものと自覚しないために抵抗することが多いです。
徐々にストレスがあると認識すると共にそのストレスを克服するようにしていきます。抗うつ薬や抗不安薬なども使います。


麻酔疼痛管理

身体醜形障害
想像上や誇張された身体的外見の欠陥へのとらわれです。
自分の顔や体が醜い、みっともないと思い、外出できないなどの社会生活に及ぼすようなものを言います。
結果的に不登校や出社拒否などの原因にもなりえます。
一種の強迫性障害でもあります。

(1)症状
最も見られる部分は顔の欠点、特に特別な部分(鼻など)に向けられることが多いようです。
顔や頭の想像上の欠陥、小さな欠陥。鼻、目、瞼、眉毛、耳、口、顎、頬などにもよく見られます。
しかも、それは他の人から見たら気にならないようなことが多いようです。
周りの人がいくら否定しても考えを改めることができません。一種の強迫 観念状態なのです。
また、頻繁に鏡などで自分の顔や身体を見ないときがすまないこともあり、これは強迫行動と言えるでしょう。

身体のいくつかの部分を同時にとらわれるようなこともあれば、特定の時もあります。
自分の心配を恥ずかしく思っているために、自分の欠陥を詳しく表現するのを避け、
そのかわりに自分の全体的な醜さを口にする人もいます。

この障害を持つ場合、たいてい自分が想像している歪みに強い苦痛を体験しています。
そのとらわれを「ひどく苦痛だ」「拷問のようだ」などと表現することが多く、ほとんどの人が自分のとらわれを制御
するのが困難であることあが自分でわかっています。また、それに対してまったく抵抗しようとしません。
その結果、1日に何時間も自� ��の欠陥について考えるようになり、生活の中心となっていくのです。
そして、最大の問題点は気になるあまり、極端に社会的に孤立するようになることがあるのです。
人に見られる可能性のない夜にだけ家を出るようになったり、家に閉じこもりきりになったりするようになります。
多くの場合で、学校を辞めたり、仕事を辞めたりする事が多いようです。また、ほとんど友達との交友を避け、
夫婦間では離婚問題にまでなったりします。そして、入退院の繰り返し、自殺念慮、自殺企図がでることが多く、
本当に自殺にまで至ることもあります。

診断基準は以下の通りです。

  1. 外見についての想像上の欠陥へのとらわれ、小さな身体的異常が存在する場合、その人の心配は著しく過剰である。
  2. そのとらわれは、臨床的に著しく苦痛または、社会的、職業的などで障害を引き起こしている。
  3. そのとらわれは、他の精神疾患ではうまく説明ができない。


(2)原因
うつ病を併発していることが多いことから、セロトニンが関係してるのではないかと言われています。
人にちょっとしたことを言われたことが原因で「自分の顔は醜い」という強迫観念を持つようになることが多いようです。
また、往々にしてそういう人はもともと対人関係に対する抵抗性が弱いようです。

(3)経過と治療
通常青年期に始まることが多く、症状について打ち明けることを嫌がる人が多いことから何年も診断されないことが多いようです。
発症は、ある日突然来たり、徐々に来たりと様々です。かなりの長期間の経過をとり、症状のない期間はほとんどなく、
症状の強さが時間と共に変動します。
治療は強迫性障害� �ほとんど同じですが、セロトニンが関係していることからも、SSRIや抗うつ薬などが使われます。
心理療法としても、暴露療法や認知行動療法が試みられることが多いようです。

疼痛性障害
訴えが痛みである神経症です。心理的要因、ストレスがその発症、重傷度、悪化、
または持続に重要な役割を果たしていると判断されます。

(1)症状
身体の様々な部分に痛みを訴えます。原因は精神的なものです。
詳しく、色々な検査をしてもはっきりとした結果は出てきません。
痛みの虜になっているため、すべての不幸の根元が、その痛みにあるかのような言い方をします。
痛みさえなければ、生活はこの上なく幸せに感じるようです。
診断基準は以下の通りです。

  1. ひとつ以上のところの疼痛がある。
  2. 痛みのためにひどく苦痛を感じていたり、仕事や社会生活上で障害が出てくる。
  3. 心理的な要因が、疼痛の原因やその深刻さ、再発などに深く関わっている。
  4. 疼痛は本人がわざと作り出しているわけでもなく、痛がっているふりをしているわけでもない。
  5. この疼痛は感情障害、不安障害、その他の精神病の症状として説明が付かない。


(2)原因
ストレスが大きな原因です。
身体を通してない的葛藤を象徴的に表現しようとします。つまり、心からのSOSの信号のようなものです。
中には失感情症を患い、言語で内的感情状態を明確化することができないので、
身体が感情を表現する人もいます。また、自分は罪を受けなければ、当然の報いだと確信を持っている人もいます。

(3)経過と治療
疼痛性障害の痛みは不意に始まり、数週間から数ヶ月のうちに強さを増してきます。経過は慢性的で、
苦痛に満ちあふれ、まったく何もできない状態となりますが、予後は様々です。
治療はストレスを軽減させる心理療法や抗うつ薬、抗不安薬などが使われることがあるようです。

< b>解離性障害
心に深い傷を負う体験やストレスが原因で、その人の意識、記憶、同一性がバラバラになってしまう状態を解離と言います。
しかし、すべての解離現象が病的というわけではありません。日常生活でも解離現象は認められます。
たとえば、高速道路で運転中ボーっとなったり、白日夢であったり、スポーツやライブでの熱狂状態、
催眠にかかった状態も一種の解離現象です。
ただ、こういった非病的な正常な範囲の解離と解離性障害における解離には関係があって、
通常の解離機能が失調し、量的質的に重症化したものが解離性障害です。

通常の解離機能を失調させるものとは何でしょうか。
ひとつはその人個人の解離しやすさというものです。
いちばんわかりやすいのは催眠状� ��へのなりやすさであらわせます。催眠は人為的な解離現象のひとつです。
もう一つは、心的外傷(トラウマ)です。心的外傷を受けた人は解離を引き起こしやすいようです。
解離機能を発揮して、心的外傷と自分を切り離し、自己を守ろうとするのです。
解離患者のほとんどが心的外傷の犠牲者でもあり、侵入症状、抑うつ、苦悶、希死念慮、薬物・アルコール乱用、
自称行為、自殺企図、PTSD様の症状を伴っていることが多いようです。

ここで述べていく解離性障害には以下のものがあります。

  1. 解離性健忘  健忘が主体の解離症状。
  2. 解離性遁走  蒸発するのが特徴の解離症状。
  3. 解離性同一性障害  いわゆる多重人格。他の人格が存在する解離現象。
  4. 離人症  離人感が主体の解離現象。


解離性健忘
強いストレスやトラウマなどによるつらすぎる体験を忘れることや逃げ出すことによってやり過ごそうとするものです。
名前や住所などの重要な個人情報を思い出すことができず、それがあまりにも広範囲に及ぶために通常の物忘れ
では説明できないことを特徴とします。

健忘 解離性障害では健忘はすべて機能性(心因性)で脳に障害があるために起こるのではありません。
解離性障害での健忘は個人情報を思い出すことができない、記憶の想起障害です。
ぼけなどの器質性健忘は一般知識や日常生活動作についての知識が失われていくという店でちがいます。

軽度の健忘としては、夢の健忘、子供時代の健忘、ど忘れ、薬物や宗教的瞑想に� �るトリップ状態などがあります。
軽度の健忘は頻度的に少なく、持続も短いようです。
重症になるほど健忘は何度も繰り返し、持続が長くなり、失われる記憶の量も大きくなります。
それにともなって、日常生活に支障が出てきて、苦痛を感じ、同一性が障害されていきます。
健忘に気付くのは、ある出来事を想起する必要があるのに想起できないときです。
想起する必要がなければ、健忘はその人の意識には出てくることもありません。

直接的な健忘体験としては記憶の空白があります。ある時間帯のことが思い出せない、
自分が何をしていたのかわからないと言う体験をします。このような空白期間の出来事に関してよく知っているふりをして話を
合わせようとします(作話)。これは社会適応戦略のひ とつですが、逆に、周囲から「うそつき」よばわりされる原因ともなります。

見知らぬ場所にいるのに気付く、見知らぬ持ち物に気付くなどの体験は健忘を示しています。
どうやってそこに来たのか、いつそのものを手に入れたのかについての健忘です。
しかし、本人は健忘のせいであるとは認識しません。

(1)症状
大きなストレスやトラウマにぶつかったときに記憶を失ってしまいます。
個人的体験の記憶を言葉にして思い出すことができなかったり、
大切な個人情報(自分の名前、家族、仕事など)を思い出すことができなかったりします。
通常の物忘れでは説明が付かないようなレベルの健忘を示します。

その人の生活史(今までどの様な人生をたどってきたか) を思い出そうとするとき、
トラウマやストレスの加わった出来事と関連して、空白な期間が存在したりします。

記憶障害のタイプ

  1. 局在性健忘  ある限られた期間に生じた出来事を想起することができません。
    その期間多くは、とても混乱させる出来事の直後の数時間です。
    例えば、自動車事故で家族全員を失い、自分だけが無傷で生き残った場合、
    その人は事故発生から二日間に起きたことを何も思い出せないなどです。
  2. 選択的健忘  ある限られた期間内のいくつかの出来事は思い出すことはできるが、
    すべてを思い出すことができない状態。簡単に言えばひどく酔った次の日のような状態です。
    退役軍人が一連の激しい戦闘体験のうちいくつかの部分しか思い出せないなどがこれにあたります。
  3. 全般性健忘  全人生をまったく思い出せません。とても珍しいです。
  4. 系統的健忘  ある範疇の情報に対する記憶の喪失です。
    例えば、家族や特定の人物に関するすべての記憶を失うなどです。


診断基準は以下の通りです。

  1. 重要な個人情報を思い出すことができず、通常トラウマやストレスの強い出来事などが原因で想起できなくなり、
    それがあまりにも広範囲にもわたるため通常の物忘れでは説明できないとき。
  2. 解離性同一性障害、解離性遁走、PTSD、急性ストレス性障害、身体化障害の経過中にのみ起こるものではなく、
    薬物や神経疾患などのその他の直接的な原因で起こるものではないとき。
  3. これらの健忘によって、苦痛や社会的、職業的な障害をきたしているとき。


(2)原因
今まで何度も出てきたようにストレスやトラウマから起こります。
思い出したくもないような嫌な出来事を思い出さないために起こります。
解離性ヒステリーの範疇に入っていましたので転換性障害などと同じく、疾病利得がえられるからです。
症状は心の底で疾病利得を期待しているためにあらわれているため、それらのプラス面がなくなるまで症状は続きます。
解離性健忘になりやすい人は高い催眠感受性を示すともいわれています。

(3)経過と治療
幼い子供から成人までどの年齢にでも起こる可能性があります。
解離性健忘を体験した人はその後の外傷的な環境に対して健忘を生じやすくなります。
また、健忘に関連した外傷的環� ��からはなれると、急性健忘が自然に解消することがあります。
自然に思い出すことは一般にあまりありません。
「忘れていたいから忘れている」ため、忘れていることにある種の意味があるからです。
治療では、催眠療法や薬物で抑圧を弱めて自由に話せるような状態にして、抑圧された記憶を回復させます。

解離性遁走
家族や普段の職場から突然、予期せぬ放浪に出ることが特徴です。同時に過去を想起できなかったり、個人の同一性が混乱して、新しい同一性をまとったりもします。

(1)症状
旅行は比較的短期間(数時間から数日)から、長期間(数週間から数ヶ月)にわたり複雑です。
遁走中その人が精神的に病んでいるようには見えず、他から注意を引くこともあり� ��せん。
症状に気付くのは、最近の出来事に対する健忘でか、自分が誰であるかわからないためです。

いったん遁走前の状態に戻ると、遁走中に起こった出来事についての記憶がなくなっていることがあります。
ほとんどの遁走中では新しい人格を形成することがありませんが、遁走中に新しい人格を形成する場合は、
以前の性格に比べてより社交的で非抑制的な傾向となります。新しい名前を名乗ったり、あたらし住所などを持ったりします。
診断基準は以下の通りです。

  1. ある日突然、家庭や職場から忽然と姿を消して放浪し、過去を思い出せなくなっている。
  2. 個人の同一性が混乱している。新しい同一性を形成している。
  3. 解離性同一性障害の経過中にのみ起こるものではなく、
    薬物や神経疾患などのその他の直接的な原因で起こるものではない。
  4. この症状によって苦痛を感じたり、社会的、職業的に障害が出ているとき。

(2)原因
解離性健忘と同じです。
強いストレスや耐えがたいストレスから、疾病利得をえるために発症します。

(3)経過と治療

場合によっては、難治性の解離性健忘が残ることがあります。
治療は、解離性健忘に同じです。

離人症
生き生きとした実感がえられない症状のことです。
自分の精神状態、特に喜怒哀楽に対して実感が感じられない場合、自分の身体に対して実感が感じあられない場合、
外界に対して実感が感じられない3つの場合があります。「実感がないという感じを強く実感している状態」です。

精神患者には不安、抑うつについで多い症状とされています。

(1)症状
< /span>離人症状  意識の内容を分類してみると、外界への意識、身体の意識、人格の意識に分けられます。
離人体験とはこの3つの領域、外界、自己身体、自己精神に現実感が湧かなくなってしまうことです。
外界に対する離人症を現実感喪失と言います。自己身体、自己精神に対する離人症状を一般に離人症と言います。

離人症は「自分が自分でない感じ」「映画のワンシーンの中にいるような感覚」「自分が見知らぬ人間であるように感じる」
「自分がロボットのようだ」「外国にいるようだ」などと訴えます。
「自分が自分の精神や身体から抜け出して外部の観察者になったような自己の知覚、体験をしている」と言ったような感じです。

行動している自分と観察している自 分が存在しているといった感覚でしょう。
このような自己の分離現象は心の中での果てしない自問自答、堂々巡りとして体験されたり、
自分の身体から自分が抜け出す体験(体外離脱体験)として感じられることもあります。

外観上は、感情表出に乏しく、淡々としています。まるでトランス状態にあるようなものです。
離人症は、宗教的な瞑想などのような非病的現象としても生じますが、この場合の離人症は心地よいものです。
他の解離症状と同じく、心的外傷に深い関連があるため、苦痛を感じ、日常生活機能が障害され、
自傷行為や自殺企図に及ぶこともあります。

また、離人症は解離性障害に限らず、特に、うつ病、PTSD、心気症、薬物乱用、パニック障害、精神分裂病などによく見 られます。

現実感喪失  外界に対する離人症を現実感喪失と言います。「外界が今までと違い奇妙に感じ、非現実的に見える」ことと
定義されています。具体的に言えば、自分の家を知らない場所のように感じる、家族や友人がよそよそしく知らない人のように、
ロボットのように見えるなどです。
視覚に関する変化が顕著で、ものが大きく見える(大視症)、小さく見える(小視症)、ゆがんで見える、遠くに見える、
生々しく見える、かすんで見えるなど色々です。幻視に近い症状が出ることもあります。
フラッシュバックも現実感喪失に含まれます。フラッシュバックを体験しているときも、
外界の認知や時間の感覚がゆがめられていることが多いからです。

多くの場合� �、この二つの症状が併せ持って出てくるようです。
「自分の意識や自分の身体が現実感を失う」ことと、「自分のまわりのものを奇妙な異物と感じている」が両方出てくるのです。

診断基準は以下の通りです。

  1. 自分から心や体が遊離して、外部から観察しているような感覚がずっと続いている。
  2. 離人体験の間、現時問題などは正常に処理できる。
  3. 離人体験によって苦痛を感じたり、社会、職業的に障害が生じている。
  4. 離人体験が、精神分裂病、パニック障害、急性ストレス障害、
    その他の解離性障害などの他の精神疾患の経過中にのみ起こるものではなく、薬物乱用などはないとき。

(2)原因
よくわかっていません。
うつ病や精神分裂病の初期、PTSDの症状として起こることはあります。
特別な理由はなく突然おそって来るものです。
思春期から青年期にかけて発症しやすく、40歳以上になると滅多に見られません。
男女比では女性の方が2倍ほど高いとなっています。

(3)経過と治療
思春期を中心として15〜30歳の間に最も発症しやすく、一般に症状が長く続きます。
たいていは20代〜30代のどこかで治癒します。
淡々と自分の症状について語るのが特徴的で、現実には大変苦しい症状が多いようです。
そのため自殺をかかるケースも多く、自殺してしまうこともあります。
だいたいは自然に治癒することが多く、決して治らない病気 ではありません。

うつ病や精神分裂病にあわせてでてきた場合などは、その治療薬などを用いることが多いようですが、
実際は患者の様子を見ながら、抗不安薬、抗うつ薬、抗精神病薬を組み合わせて治療していきます。
心理療法では、「力動精神療法」や「認知行動療法」を用います。


解離性同一性障害(多重人格性障害)
二つまたはそれ以上のはっきりと他と区別できる同一性あるいは、人格状態が存在していて、
それらが繰り返しその人の行動を制御し、普通の物忘れでは説明が付かないような重要なことを思い起こすことが
できなくなっていう状態です。絶えることのできない心的外傷によって発症します。

(1)症状
同一性  知覚、思考、行動などの意識的なものは、普通、自我と呼ばれます。
自我はその人の歴史の中で持続し、一貫し、記憶はほぼ連続しています。
この場合、自我は、ある時間的、空間的、社会的な内容を伴った存在として自分を認識することができます。
これが自我同一性(私� �私である)です。

同一性混乱と同一性変容  健忘、離人症、現実喪失感では自分の記憶が一貫せず、
自分の身体が自分の身体であると感じられず、自分が世界になじんでいないと感じています。
ここにも既に、自分が自分である感覚=同一性の障害は認められます。
しかし、解離性同一性障害における同一性の障害はそれ以上のものです。

この同一性の障害を二つに分けます。
ひとつは、主観的な面(同一性混乱)と、もう一つは、行動的(客観的)な面(同一性変容)です。
同一性混乱は、転職や引っ越しなどしたときに感じられるものと同じようなものです。
「自分がどこにいるのか、何をしているのか、なんなのかわからない」といった感覚です。
「自分の同一性や自己意識に 対する、不確実、不信、困惑、葛藤など」を自覚することです。

また、精神の内側で複数の考えが衝突し、葛藤が繰り広げられるという同一性混乱もあります。
抗体人格同士が、患者の内部で闘争するため患者は一体自分の考えが何なのかわからなくなるといったものです。
例えばこの同一性の混乱が性同一性に関して生じてくると、自分が男なのか女なのかわからなくなると言ったことにもなります。
多重人格で、異性の人格が出現してくるのは、このためです。
つまり、内部での異性人格との葛藤の結果として性同一性混乱が生じるのです。

同一性変容は「他人から、その人の行動パターンの変化によって気付かれることが多いような患者の社会的役割の変化」
となっています。簡単にい えば、他から指摘されるような行動上の変化です。
例を挙げると、知人を診察する救急外来の医者のようなものです。
彼はいつも知人と接しているようなやり方ではなく、医者としてその人に接します。
知人から見れば、彼はいつもとちがう行動様式をとっていることになります。
しかし、この場合苦痛は伴いません。病的になってくると苦痛を伴うようになってきます。
また、コントロールもきかないものです。
他の例では、別の名を用いる、できるはずのない楽器の演奏や外国語会話などができる、自分に対して三人称を使うなどです。
このような行動の変化は、多重人格では交代人格による行動である場合もありますが、すべてがそうであるわけではありません。

交代人格  解離� ��同一性障害とは、複数の人格状態がある程度持続的に、一貫的に並列的に存在する状態です。
このような別の同一性を交代人格と呼びます。
すべての交代人格、そして意識と無意識を含めた心の全体を「人格システム」といいます。
要するに、どの交代人格も人格システムの一部です。最も身体を支配している時間の長い人格をホスト人格(主人格)といいます。

治療を求めてあらわれるのはたいていがこのホスト人格です。ただし、ホスト人格が中心的な存在とは限りません。

児童虐待との関連について
解離性同一性障害患者のほとんどが、小児期に重大な心的外傷体験、特に被虐待体験を持っています。
(90%に性的、身体的虐待の既往あり)性的虐待には、セックスだけではなく、口唇的、性器的、肛門直接接触や浣腸、
膣洗浄などがあります。虐待者は親、同胞、近親者、他人など様々です。

身体的虐待には、殴る、蹴るなどの暴力の他に、やけどを負わせる(タバコを押しつける)、刃物で切るなどもあります。
子供の自由を奪う監禁やロープによる束縛、生き埋めなどは、子供に解離を起こしやすくします。
それ以外� ��も、侮辱、威嚇などを受けたり、兄弟の虐待を目撃する、
大切なものやペットを壊される、社会的に孤立させられる(いじめなど)でも起こりえます。

これらの耐え難い外傷体験によって、普通のままでいたのではとても耐えられず、また、強い恐怖感のため、
自分の心を防衛しようとして、別の人格が生まれると考えられています。
多くの場合は、既に自分の中に複数の人格を持っていることを自覚しています。
その状態が、周りの人にはなく自分だけなんだと気付くことによって、はっきりしてくることが多いようです。

多重人格の実際の症状は?
解離症状では健忘があげられます(98%)。健忘といっても実際上はその程度も(交代人格や本人同士の)意識の共有の程度も、
交代� �格同士の認知の程度も様々です。
A人格はB人格を知っているが、B人格はA人格を知らない、または、存在を知っているがどういう状態にあるのかわからないなどの
色々なパターンがあります。

その他の解離症状としては、遁走(55%)、離人感(53%)、夢遊(20%)となっています。
感情症状としては、抑うつ、気分変動、自殺企図が多いようです。
これらの症状は多重人格に限らず、児童虐待の犠牲者にはよく見られる症状です。
多くの場合、低い自己評価、自己嫌悪、自己処罰の傾向を示すようになります。
虐待のフラッシュバックとして、抑うつや、不安、恐怖症状が見られるようになります。

昔は精神分裂病の範疇に入っていたため、よく精神分裂病と間違えられます。
精神分裂病と同じような症状として、幻視、錯視があります。悪夢のようなぞっとする光景、
知っている人が別人に見える、鏡の中の自分の姿が変に見えるなどです。

身体症状で一番多いのは頭痛です。
これは、交代人格の間での身体支配権争いの時に見られたり、人格が入れ替わるときなどに見られます。

診断基準は以下の通りです。

  1. 二つ以上の人格が存在する。
  2. 繰り返し患者の行動を乗っ取ってしまう。
  3. 普通の物忘れでは説明できないほどの健忘がある。


多くの場合解離性同一障害と診断されるまでに平均6.8年ほどかかっています。
それまでに気分障害(躁うつ病)、境界性人格障害、不安障害、精神分裂病として治療されていることが多いです。
誤診されているケースが多く、ちがった診断名で治療を受けていますが、改善していません。
解離性同一障害と診断するためには、交代人格と出会うことが不可欠です。
しかし、患者は多くの場合、交代人格の存在を隠しています。そこで解離性同一障害を疑うポイントとして、

  1. 性的虐待、身体的虐待を受けていたことがある
  2. 女性
  3. 20〜40歳
  4. 記憶の欠落、健忘
  5. 頭の中に声がする
  6. 境界性人格障害の診断基準を満たす
  7. 過去に色々な治療を受けたが失敗している
  8. 自己破壊的行為
  9. 思考障害はない

があります。
この中でも、健忘、幻聴、自己破壊行為、境界性人格障害には特に注目します。

(2)原因
先にも述べましたように、小児期の虐待をはじめとする心的外傷です。
しかし、それ以外にもいじめや恋愛の失敗などでおもることもあります。
強いトラウマから自分を守るために盾をおくことを目的としています。
本体を守るために「我慢強い人格」や「攻撃は最大の防御的人格」など様々な人格が誕生します。
なりやすい性格としては、境界性人格障害と演技性人格障害です。

男女比は1:5と圧倒的の女性が多いです。
これは、性的虐待の対象になりやすいことも一因でしょう。

(3)経過と治療
10歳前に発症した場合は� ��わめて治療が難しいようです。
一方、10歳以降であれば、自然に解消されていくこともあります。
人格の数が多ければ多いほど、治りにくいです。

治療の目標
治療の目標によって、治療内容は変わってきます。
ここで注意して欲しいのは、多重人格のすべとをひとつの人格に統合しなければならないと、
考えられがちですがそうではありません。多重人格システムのまま治療も受けず、高度な機能を発揮している人もいるからです。

共通の治療目標は、患者の機能レベルの安定と向上、心的外傷の解消です。
患者の多くが、小児期に重大な心的外傷や葛藤にさらされてきた人たちです。症
状を改善していくためには、その心的外傷に接触しなければなりませんが、
その� �とが患者を不安定にし、機能レベルの低下を引き起こすこともあります。

治療の原則

  1. 治療者と患者の関係  治療同盟を育てつつ、患者自身が治療に積極的に取り組む
  2. 多重人格状態  特定の交代人格をひいきせず、公平に扱う。問題行動のある人格を排除したり、
    援助的な人格に全体の管理を押しつけたり、特定の人格と取り引きしたり、特定の人格を中傷してはいけない。
    人格システム全体の一部であることを忘れてはいけない。
  3. 心的外傷  安全にあせらずに取り扱うこと。場合によっては悪化することがあるから。
  4. 治療者の態度  患者は暗示を受けやすく、多くの否定的な認知のゆがみを持っています。
    誤解を与えないように、認知のゆがみを解除していく。治療者のちょっとした態度を、悪いようにとりやすい。
    (ため息をつくと、あきらめられたと感じるなど)患者は自分の安全を守るために、治療者を常に厳しくチェックしています。
    一貫した責任ある態度でないと足下をすくわれます。


治療の段階
心的外傷の回復を3段階に分けて考えます。
第1段階は「安全の確立」、第2段階は「回想と服喪追悼」、第3段階は「通常生活との再結合」です。
第2段階で患者が心的外傷と直面し、それを消化していきます。第1段階はその準備段階、第3段階は心的外傷からの再出発です。
これらをさらに細かく9段階に分けます。1,2は安全の確立、3〜6は回想と服喪追悼、7〜9は日常生活の再結合です。

第1段階:精神療法の基礎を築く
安全な雰囲気を作り出すことです。
解離性同一性障害の診断がついたら、患者にそのことを告知しないといけません。
ホスト人格がなかなか診断を受け入れなかったり、診断を受け入れない交代人格が� �ることも多いようです。
治療はあくまでも患者自身の自発性によってなされるもので、患者もしくは治療者のどちらにも治療を中止する
権利があることを患者に理解してもらいます。
そのうえで、治療の目標、治療の段階、催眠療法や集団療法などの併用、限界などを説明します。
治療の主体は患者であり、患者が自己決定していくことが基本です。

第2段階:予備的介入
接近しやすい交代人格から接近していくことです。
治療の突然の中断、自傷、自殺などの患者が放棄したいと思っている行動について交代人格と協定を結ぶことです。
交代人格間でのコミュニケーションを育て、(治療に)賛同する交代人格を増やしながら、治療同盟を確立していくことです。

契約はホスト人� �だけではなく、人格システム全体と交わす必要があります。
しかし、この段階ですべての交代人格と接触できることはまれです。この場合、トーキング・スルーという方法を用います。
人格システム全体に呼びかけるのです。「全員聞いてください」などの前置きをしてから、伝えたい内容を簡潔に述べるのです。
こうすることは、治療を人格システム全体に対して行うという治療者の態度を患者に印象づける効果もあります。
この段階で必要なことは、患者がひとまず落ち着くことです。
そのためには交代人格間の内部のコミュニケーションを促進し、様々な選択を人格同士の話し合いによって決定していくことです。
ホスト人格は、最初、交代人格の出現に不安や恐怖を感じますが、
援助者人格や子供の人格� ��出会うことによって、心強さを感じるようになります。
コミュニケーションを促進する方法には、日記や掲示板などを書くと言うことがあげられます。
こうすることは、健忘のある時間帯の行動をあとから理解するのにも役に立ちます。

第3段階:病歴収集とマッピング
交代人格、その起源、人格同士の関係についてより多くを学ぶことです。
この段階では、交代人格の5W1H、つまり、交代人格の名前、出現した年齢と現在自分が感じる年齢、
出現し存在し続ける理由、患者の生活史の中での関係と位置、特別な問題、機能、関心事などです。

一般的に、患者名一貫した生活史を話すことができません。(健忘があるから)
通常、失われた生活史の部分は別の交代人格が保持して� ��ます。交代人格間の内部コミュニケーションが活発になり、
多くの交代人格と治療者との交流が進むにつれて、生活史の空白が埋められていきます。
その中で、各人格の起源や役割などがより明らかになっていきます。

精神世界内での交代人格たちがどの様な関係で存在しているのかを図式化することをマッピングといいます。
どの様に図式化するかは自由ですが、前交代人格がその中に描かれていることが大切です。
マッピングは経過とともに変化していきます。治療が進むと、人格同士の共有部分が多くなっていきます。
空白部分があれば、隠れている交代人格の存在を疑います。

第4段階:心的外傷の消化
原因となる体験に接近し、解決しようとする段階です。病歴収集を行っていく過程で、心的外傷の全貌は少しずつ明らかになっていきます。
ある外傷的出来事の記憶が強い感情を伴って意識に浮上し、その心的外傷を再体験することがあります。
これを除反応といいます。外傷的出来事を連想させるような外部からの刺激(テレビや人の会話など)によって、
除反応が誘発されることもあります。
除反応を治療的なものにするためには、心的外傷が何であったかを理解し、それにまつわる感情を表現することが大切です。
心的外傷を触れる前に、体験をできる限り時間の流れに沿って整理します。交代人格間で記憶を分けて持っていることがあるからです。
混沌とした外傷的体験を秩序化した後、その内容について十分に面接で取り上げます。
そうすることで患者は� �の時の感情はなんだったのか、どういう意味があったのかとわかります。
しかし、真実を知ることはつらいことでもあります。そして、外傷以前の自分が本当に取り戻せないことを知ります。
その喪失感情を受け入れるためには、悲嘆し、喪失感を体験することが必要でもあるのです。
その過程を経て、心的外傷は少しずつより大きな生活史の一部となっていきます。
心的外傷の消化とはこのような過程で行われます。

第5段階:統合-解消への動き
交代人格を通して快復した記憶の材料を経験していく過程です。また、交代人格間のコミュニケーションが増し、
多くの内部葛藤が減少、解決されていきます。
交代人格たちは個別的であったそれぞれの性格の違いをぼかしてみせるよ� �になります。
同一性の混乱(わたしはAとBの両方だと思う、など)を体験することもあります。

通常、心的外傷の塊はひとつだけではありません。
除反応を繰り返し、大きな外傷体験をひとつひとつ処理していくことで、記憶の空白をなくしていきます。
除反応後、迫害人格や問題行動を起こす人格が不活発になることもあります。交代人格間の葛藤も少なくなります。

患者の視点は生活自然体に一貫性を見いだそうとします。マッピングでは、各交代人格間の共有部分が増えていきます。
健忘が少なくなり、意識を共有することが多くなっていきます。
そのうちに、人格間の解離障壁が取り払われて、自然な融合を起こす人格もでてきます。

この多重人格システムから、単一人 格システムへ移行は、ある種の不安定さを伴います。
精神内の大変動であるとともに、回復することへの寂しさ、不安があるからです。
今まで悩みの種だった症状は軽快していき、自分がよくなってきていることを自覚します。
それに伴い、現実に直面していくこと、将来への不安などもでてきます。「病者としての自分への別れ」です。

第6段階:統合-解消
解消とは、それぞれの同一性は残しながらも、交代人格間の解離障壁がなくなって、円滑に人格システムが機能する状態です。
しかし、それぞれの交代人格は、分離したいときにはいつでも分離できる状態でもあります。
統合とは、二つ以上の同一性をひとつにあわせて、単一体にすることです。融合とも言われます。

統合は、まず、統合したいという交代人格の意思を確認することから始まります。
交代人格は自分という存在が消滅するのではないかとの不安も抱きます。
ここで、統合によって、決してどちらかの交代人格が消えてなくなると言うことではないということを理解してもらいます。
また、統合は永遠に続くのではなく、ストレスがかかれば再分離する可能性もあります。

人格の統合は続けられていきますが、最終的に患者の人格システムが単一か、
いくつかの交代人格が共存するシステムと取るかは、患者自身が選びます。

第7段階:新しい対処技術の学習
解消や統合は治療のゴールではありません。
統合後の状態はとても不安定で、強いストレスがかかると再分離する可能性もありま す。
いままでは危険なことがあると、それぞれの交代人格が担当していましたから、ひとつの人格としての行動を身につけて
いかなければなりません。かつての友人・知人と疎遠になることも多く、一方、新しく出会った人と親密になっていったりもします。
このような人間関係の再編成も行われます。

第8段階:獲得したものの定着化
対処技術が磨かれ、定着していくにつれ、再分離の可能性は遠ざかります。しかし、自分自身の「個性」に直面します。
今までは、交代人格の中に存在していたその人の個性が、ひとつのかたちとなっていきます。
治療も心的外傷から、葛藤へとテーマが変わっていきます。

第9段階:フォローアップ
長期的には再分離の可能性� ��あります。
統合したと思われたが、未接触の交代人格が潜んでいたりする場合もあります。



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